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     法定の健康診断と
        労働者の健康管理の注意点

事業主の健康管理責任
最近の過労死・過労自殺、過重労働起因の脳疾患・心疾患及び精神疾患の急増を受けて、会社の社員に対する健康管理責任が大きくクローズアップされています。
現在は、事業主が「従業員の健康状態を知らなかった・・・・・」では済まされない時代なのです。
尚、ここで言う「健康」とは、身体の健康のみならず、精神(心)の健康も含まれます。
社員のメンタルヘルス管理は、実際にそれを行なうのはなかなか難しい面がありますが、少なくとも、法律で定められた健康診断は確実に実施して、従業員の健康状態を把握し、「異常の所見有り」と診断された者については、医師の意見を聴いた上で必要な措置をとる、ということが重要です。

【労働安全衛生法で定める過重労働対策】
最近の脳・心臓疾患の労災認定件数、及び精神障害を原因とする自殺の労災認定件数の高止まりを受けて、労働安全衛生法の一部が以下のように改正されました。
(1)月間の法定時間外労働時間数が100時間を超えた労働者から申出が有った場合、事業主は医師による面接指導を実施すると共に、その指導結果に基づく具体的な措置を講じなければなりません。
(2)前述の(1)の条件に該当しない労働者であっても、長時間労働(月80時間超の法定時間外労働等)により疲労の蓄積が認められる労働者や自身の健康に不安を感じる労働者から申出が有った場合は、医師の面接指導に準ずる措置(保健師面談など)を講ずるように努めなければなりません。


恐ろしい労働安全衛生法の健康管理規定
労働安全衛生法第66条の4
「事業者は、健康診断項目に異常の所見有りと診断された労働者については、当該労働者の健康を保持する為に必要な措置について医師の意見を聴かなければならない。」
労働安全衛生法第66条の5
「事業者は、第66条の4の規定による医師の意見を勘案し、その必要があると認める時は、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜労働の削減・・・・・などの適切な措置を講じなければならない。」
この労働安全衛生法の規定が意味するところ、お分かりでしょうか?
上記の2つの規定により、事業主は、労働者と労働契約を締結した段階で、その労働者の有する“私病(持病)”に対しても健康管理責任と健康配慮義務を負う、ということになるのです。
(業務起因の疾病だけが事業主の健康管理責任・健康配慮義務の対象となるのではありません。)
従業員の採用選考過程で過去3ヶ月以内に実施した健康診断結果を提出させるケースがあります。
これは、「就職差別につながる」、「個人情報保護の問題」などで何かと批判が多いところですが、上記の労働安全衛生法の規定が存在する以上、「心身共に健常な者を採用する」という会社側の採用選考は致し方ないのではないか?と考えます。
この場合、その応募者を採用しなかった時は、提出させた健康診断結果を本人に返却することを忘れないで下さい。


法定健康診断実施における注意点
以下に法定健康診断実施における注意点を列挙します。
1.健康診断結果の保存義務と届出義務
健康診断の受診結果は、個人情報保護の観点のもとで各労働者毎に「健康診断個人票」を作成し、事業所に5年間保存する義務があります。
更に、常時50人以上の労働者を使用する事業所の場合は、健康診断実施結果を労働基準監督署に届出する義務があります。

2.労働者雇入れ時の健康診断
雇入れ時の健康診断については、その雇入れ日以前3ヶ月以内に労働者自身が実施した健康診断結果を提出させることで代用出来ます。


但し、以下に掲げる法定受診項目の中で未実施の項目が有る場合は、その項目についてのみ、会社が雇入れ時の健康診断を別途実施しなければなりません。
〈健康診断における法定受診項目〉
既往歴、業務歴の調査
自覚症状及び他覚症状の有無の検査
身長、体重、視力、聴力の検査
胸部X線検査
尿検査
心電図検査
血圧の測定
貧血検査
肝機能検査
血中脂質検査
血糖検査
 (以上11項目)


3.健康診断の費用負担
健康診断の費用負担については法律に規定は有りません。
ただ、法律で事業主に健康診断実施を義務付けている以上、原則として事業主負担にすべきだと考えて下さい。
但し、雇入れ時に労働者自身が実施した健康診断結果を提出させる場合、又は、会社が実施する定期健康診断を自己都合により受診しなかった者に対して個別に健康診断実施とその受診結果の提出を指示した場合は、労働者本人負担としても何ら問題は有りません。

4.健康診断の受診時間の取扱い
定期健康診断の受診時間は(労働時間ではありませんので)無給にしても法律違反ではありませんが、所定労働時間内に定期健康診断を行なう場合は、少なくともその受診時間を通常の労働時間と同様(有給)に取り扱うことが望ましいと言えます。
一方で、一定の有害業務従事者を対象とする特殊健康診断の受診時間については、所定労働時間外に実施した場合であっても、これを無給扱いにすると、労働基準監督署の是正指導の対象になりますのでご注意下さい。

※特殊健康診断とは次に掲げる健康診断を指します。
(1)高気圧業務健康診断(雇入れ・配置替え時及び6ヶ月以内毎に1回実施)
(2)電離放射線健康診断(雇入れ・配置替え時及び6ヶ月以内毎に1回実施)
(3)鉛健康診断(雇入れ・配置替え時及び6ヶ月以内毎に1回実施)
(4)四アルキル鉛健康診断(雇入れ・配置替え時及び3ヶ月以内毎に1回実施)
(5)有機溶剤健康診断(雇入れ・配置替え時及び6ヶ月以内毎に1回実施)
(6)特定化学物質等健康診断(雇入れ・配置替え時及び6ヶ月以内毎に1回実施)
   特定化学物質とはベンジジン、アモサイト、ベリリウム、塩化ビニル、クロム酸、ベンゼンなど数十種
(7)石綿健康診断(雇入れ・配置替え時及び6ヶ月以内毎に1回実施)
(8)歯又はその支持組織に対する有害物質の発散場所従事者に対する歯科健康診断(雇入れ・配置替え時及び6ヶ月以内毎に1回実施)
   有害物質とは塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、弗化水素、黄りんなど
(9)じん肺健康診断(就業時・就業中定期・離職時に実施)
尚、特殊健康診断の受診項目は、上記(1)〜(9)の各々について別途法令で定められています。

5.健康診断の対象労働者
定期健康診断の対象労働者は、以下の2つの条件の両方に該当する者です。
(1)既に1年以上継続雇用している、又は今後1年以上継続雇用する見込みの者
(2)1週の所定労働時間が一般の正規労働者の3/4以上である者
よって、正社員、パートタイマー、アルバイトといったその事業所内における労働者の身分呼称は関係有りません。
また、一定の有害業務従事者を対象とする特殊健康診断については、上記(1)(2)に該当しなくても、先述した有害業務に従事させている以上、原則として全員が特殊健康診断の対象労働者になります。

6.深夜労働従事者の定期健康診断は年2回!
所定労働時間の全部又は一部
深夜時間帯(午後10時〜午前5時)にかかる労働者については、半年に1回、定期健康診断を実施する必要があります。
(24時間営業のコンビニエンスストアや深夜迄営業している飲食店などを経営されている事業主の方は充分注意して下さい。)

また、所定労働時間が深夜時間帯にかからない労働者の場合であっても、過去6ヶ月間に24回以上の深夜労働をさせた場合は、年1回の定期健康診断とは別に、個別に健康診断を実施する必要があります。

7.6ヶ月毎に1回の定期健康診断実施が必要な業務
先述しました特殊健康診断及び深夜労働従事者の健康診断以外にも、次に掲げる特定業務に常時従事する労働者に対しては、定期健康診断を6ヶ月毎に1回実施することが義務付けられています。
(1)多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
(2)多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
(3)ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線に曝される業務
(4)土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
(5)異常気圧下における業務
(6)削岩機、鋲打機等の使用によって身体に著しい振動を与える業務
(7)重量物(20kg以上)の取扱い等重激な業務
(8)ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
(9)坑内における業務
(10)水銀、砒素、黄りん、弗化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
(11)鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
(12)病原体によって汚染のおそれが著しい業務

尚、塩酸・硝酸・硫酸・亜硫酸・弗化水素・黄りんその他の歯又はその支持組織に有害な物のガス・蒸気又は粉じんを発散する場所における業務に従事させている場合は、歯科医師による健康診断が必要です。

8.石綿(アスベスト)作業従事者の健康診断
石綿障害予防規則により、建築物の解体などで石綿作業に従事する者に対しては、6ヶ月毎に1回、定期健康診断を実施して、その結果を「石綿健康診断結果報告書」という専用の書面で所轄の労働基準監督署へ報告することが新たに義務付けられました。
また、石綿健康診断個人票は、5年間ではなく、30年間の保存義務が課せられます。





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愛知県名古屋市の社会保険労務士・行政書士 藤澤労務行政事務所