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   労災保険の行政不服審査請求制度

労災保険の審査請求制度の概要
労災保険給付の支給/不支給の決定処分に不服が有る場合、直ちにその行政処分の取消訴訟を裁判所に提起することは出来ず、まず行政側(厚生労働省)に対して、行政不服審査の請求(行政不服申立て)をしなければなりません。
この行政不服審査の請求(行政不服申立て)制度は、各都道府県労働局に設置された労働者災害補償保険審査官宛の審査請求(第一審請求)、及び東京都の厚生労働省内に設置された労働保険審査会宛の再審査請求(第二審請求)の二審制がとられています。
審査請求(又は再審査請求)は、法律上、書面と口頭のいずれでも出来ることになっていますが、不服申立ての内容及び理由を明確に主張し、またそれらの記録を残す為には、当然ながら書面(「審査請求書」)によって行なう必要があります。
尚、裁判所への訴訟提起と異なり、行政不服審査の請求(行政不服申立て)はその手続きに対して費用はかかりません。



行政不服審査の請求内容と請求者の条件
【行政不服審査の請求内容についての条件】
先述しましたように、労働者災害補償保険審査官宛に審査請求が出来るのは、「労災保険給付の支給/不支給の決定処分」への不服に限られます。
具体的な例を挙げますと、
労災保険給付がもらえると思っていたのに「不支給」の決定を受けた
障害年金がもらえると思っていたのに「一時金支給」の決定を受けた
といった場合です。

ですので、次に掲げるような不服については労災保険法に基づく審査請求をすることが出来ません。
傷病の治癒日の決定に対して納得が行かない。
保険給付の支給金額に対して納得が行かない。
遺族年金の支給対象遺族の決定に対して納得が行かない。
このような保険給付支給可否の決定処分の前提として為される「要件事実の認定処分」に対して行政不服申立てを行なう場合は、行政不服審査法に基づき審査請求をすることになり、この場合は行政不服申立てを前置することが義務付けられていませんので、直ちに処分取消訴訟を提起することも出来ます。



【行政不服審査の請求者についての条件】
審査請求は、その行政処分に対して関わりの有る者なら誰でも出来る、という訳ではありません。 (これは異議申立てを行なう場合も同様です。)
その行政処分により直接自己の権利又は利益を侵害された者に限り、審査請求人となることが出来ます。
ですので、被災労働者の同僚(又は保険給付支給に無関係の親族)、第三者行為災害の加害者などは、審査請求(又は異議申立て)を行なうことは出来ません。
尚、労働社会保険に関する審査請求や異議申立ては、社会保険労務士などの代理人を立てて行なうことが出来ます。 
行政不服審査の請求(行政不服申立て)を行なう為には、当然ながらその行政処分の関連法規について詳細な知識が必要であり、一般の被災労働者(又はその遺族)の方がこれらの法律知識を有するケースは稀である為、むしろ専門家の代理人を立てて行政不服審査の請求(行政不服申立て)を行なう方が一般的です。



労働者災害補償保険審査官(労災保険審査官)宛の審査請求
労災保険給付の支給/不支給決定処分に不服が有る場合、その通知書を受け取った日から3ヶ月以内に、各都道府県労働局に設置された労災保険審査官宛に審査請求をすることが出来ます。
労災保険審査官と聞いて、司法制度における裁判官を連想してはいけません。
労災保険審査官は全て厚生労働省の職員です。
よって、「身内がした処分を身内が裁く」という構造になっていることに加え、厚生労働省の職員であるが故に行政通達(=法律の規定に対する行政側の解釈を定めたお役所内の訓令)に拘束されている、というのが実態です。
ですので、審査請求をする場合は、最初の労災保険給付請求時に提示していなかった新たな証拠を提示するか、又は他の類似の裁決事例を調査して請求内容の理論構築をした上で審査請求を行なわないと、最初の原処分と同じ結果になってしまうケースがほとんどです。

ですので、審査請求書に記載する請求の趣旨と理由については、心情的又は情緒的な内容にならないようにキチンと論理構成をして記載することが重要です。
特に、障害給付については、医師の医学的証明(=診断書の記載内容)が絶対視される傾向にありますので留意が必要です。
尚、労災保険審査官宛に申立てを行なえば、口頭で意見陳述(審査請求書の記載内容についての補足説明)を行なうことも出来ます。
労災保険審査官は独任制である為、1人の労災保険審査官が請求案件を裁決し、通常は審査請求日から3ヶ月以内にはその裁決書謄本が送付されます。



労働保険審査会宛の再審査請求
労災保険審査官宛の審査請求の裁決結果に対しても不服がある場合、その裁決書謄本を受け取った日から2ヶ月以内に、東京都の厚生労働省内に設置された労働保険審査会宛に再審査請求をすることが出来ます。
また、労災保険審査官が審査請求日から2ヶ月以内に裁決しない場合も、同様にその裁決結果を待たずに再審査請求をすることが出来ます。
尚、労災保険審査官による裁決結果に不服があって再審査請求をする場合でも、再審査請求は、あくまでも“原処分に対する不服”を申立てるものであり、審査請求の裁決結果に対する不服を申立てるものではない、ということに注意して下さい。
労働保険審査会は、9人の委員で構成される合議制機関です。
この委員は、所謂「有識者」と呼ばれる人の中から、厚生労働大臣が衆参両議院の同意を得て任命することになっていますので、労災保険審査官の審査よりは公平な判断(裁決結果)が期待出来ますが、過去に明確な司法判断や審査会判断が出ていない事案については、完全に「行政通達の呪縛」から解放されている訳ではありません。
また、地方在住者の場合は、口頭での意見陳述などを行なう為に、わざわざ東京迄出向かなければならない(当然、交通費などは自己負担)といった難点もあります。
再審査請求は、その裁決結果が出る迄数ヶ月又は1年以上を要します。
ですので、法律上では、再審査請求をして2ヶ月経ってもその裁決が無い時は、裁判所に対して処分取消訴訟を提起出来ることになっています。
但し、処分取消訴訟は、通常の民事訴訟と違って、行政処分(原処分)の明らかな違法性を問える場合でないと訴訟提起をすることが出来ません。 行政処分の不当性を問えるだけの場合は訴訟を提起しても裁判所に却下(門前払い)されてしまいます。
また、訴訟費用も馬鹿になりません。
更に、ご存知のように我が国の訴訟手続きは非常に時間がかかりますので、その裁判結果が出る迄、通常は数年の歳月を要します。

それを極力避ける為の簡易迅速な救済制度がこの審査請求制度です。
再審査請求の裁決結果に対しても不服が有る場合は、裁判所に対して処分取消訴訟を提起する以外、対応策が無くなりますが、まずは審査請求で納得のいく労災認定を勝ち取ることに全力を挙げるべきです。





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愛知県名古屋市の社会保険労務士・行政書士 藤澤労務行政事務所